≪論文紹介≫

背景

バングラデシュの農村部では、ほとんどの女性が思春期（この研究では12歳から19歳を含む年齢と定義）に結婚し妊娠を促す社会的な強い圧力に直面しているため、結婚後数年間の妊娠率が高くなっています。思春期の妊娠は、若い女性の残された成長の可能性を制限し、有害な出産結果のリスクを高める可能性があります。その一つの要因として、若い女性の妊娠前の栄養状態が悪いことが考えられます。バングラデシュの農村部では、特に思春期の女性が発育不良で痩せている傾向があります。

母体の肥満度（BMI）と出産可能性（避妊をせずに正常な月経周期で定期的に性行為を行った場合の妊娠確率と定義）との関連性については、様々な文化的背景を持つ少数の文献が存在します。

一般的に、多様な環境におけるこれらの研究は、BMIが極端に低い（18.5未満）または高い（30以上）女性は、繁殖能力が低いことを示唆しています。

著者らは、妊娠可能性の代用として妊娠までの期間（TTP）という指標をもとに調査しました。

調査対象

この研究は、バングラデシュ北西部の典型的な地域であるガイバンダとラングプルの19の農村組合（地方自治体の最低行政単位）で実施されました。この地域の面積は約435 km2で、人口は約65万人です。
研究の参加者は、妊娠第一期の女性を選択しました。

今回の解析では，参加した女性が妊娠する可能性のある期間（すなわち5～6年）を最大期限とし、5週間ごとに自宅で妊娠サーベイランスを受けた新婚女性のデータ（n＝6,281人）のみを対象としました。

妊娠サーベイランスシステムへの登録時および妊娠検査の前に、新婚女性から口頭によるインフォームド・コンセントを得て、現場スタッフがデータ収集用紙に記入して記録しました。

データ収集

2001年の試験開始時から、デジタルマップに登録された110,000軒以上の家庭を訪問し、妊娠可能な年齢の既婚の非妊娠女性を妊娠監視システムに登録し、年齢、現在実践している家族計画法の種類、Zerfas挿入テープ（Zerfas, 1975）を用いた0.1cm単位の左足MUACを記録、周径測定は3回記録し、中央値を真値とした。

5週間ごとに596人の住民スタッフが家庭を訪問し、前月の月経歴を聴取し、無月経の女性には妊娠確認のためにヒト絨毛性ゴナドトロピン（hCG）尿検査を実施した。

研究参加時の得られたMUACが21.5cm以下であることを「やせ」と定義した。

Zerfas挿入テープとは、ユニセフの命のテープと同類の腕に巻いて健康状態を測定するメジャー

ユニセフより引用

結果１調査対象者の特徴

12歳から19歳の新婚の思春期女子5,516人のうち、結婚時の年齢と最初の妊娠発見時の年齢（平均±SD）は、それぞれ15.3±1.9歳と17.0±1.9歳であった。

MUACが21.5cm以上および21.5cm以下であった3,746人および1,770人の女性の、最終月経報告による結婚および妊娠時の年齢は、それぞれ15.5±1.8歳および17.2±1.9歳、14.9±1.9歳および16.7±1.9歳であった（両比較ともにp＜0.001）

ほとんどの女性が避妊を行っていなかった。

	全体 (n = 5,516)		MUAC >21.5 cm (n = 3,746)		MUAC ≤21.5 cm (n = 1,770)
変量	n	%	n	%	n	%	p a
結婚時の年齢							<.001
12	311	5.6	120	3.2	191	10.8
13	736	13.3	447	11.9	289	16.3
14	1,058	19.2	694	18.5	364	20.6
15	1,076	19.5	765	20.4	311	17.6
16	789	14.3	569	15.2	220	12.4
17	761	13.8	569	15.2	192	10.9
18	492	8.9	357	9.5	135	7.6
19	293	5.3	225	6	68	3.8
平均	15.3		15.5		14.9
標準偏差	1.9		1.8		1.9
妊娠時の年齢							<.001
人数	4,397		3,056		1,341
平均	17		17.2		16.7
標準偏差	1.9		1.9		1.9
研究参加時のMUAC (cm)							<.001
平均	22.5		23.5		20.4
標準偏差	1.9		1.4		0.9
避妊と状況							<.001
避妊なし	4,947	89.7	3,291	87.9	1,656	93.7
ピルの服用	489	8.9	392	10.5	97	5.5
コンドーム	72	1.3	58	1.6	14	0.8
自然な方法	3	0.1	2	0.1	1	0.1
子宮内避妊具	1	0	1	0	0	0
注射による避妊	1	0	1	0	0	0
その他	1	0	1	0	0	0
結婚の年							0.321
2001	1,637	29.7	1,096	29.3	541	30.6
2002	3,879	70.3	2,650	70.7	1,229	69.4
結婚の季節							0.676
モンスーン	2,363	42.8	1,624	43.4	739	41.8
モンスーン前	1,048	19	707	18.9	341	19.3
収穫前	1,139	20.7	771	20.6	368	20.8
高温多湿の夏	966	17.5	644	17.2	322	18.2
生活水準指数							<.001
水準以下	1,648	37.5	1,080	35.3	568	42.4

結果２：MUACと妊娠までの期間

思春期の新婚夫婦の追跡調査期間は、平均76.2±73.1週で、最長の追跡調査期間は317週（つまり、6.1年）でした。結婚からのTTPは、全体で53.4±43.1週間でした。
累積では、追跡期間52週、104週、156週以内にそれぞれ48.4％、71.6％、82.3％の女性が妊娠しました。

MUAC≦21.5cmの女性は、MUAC＞21.5cmの女性に比べて、妊娠するまでに平均11.6週間かかりました。

Jinhee Hur, et al.2020より引用編集

妊娠した人だけに限定して、TTPのKaplan-Meier曲線を作成したところ、 妊娠前のMUACが大きい人よりも細い女性の方が、TTPが長くなる傾向が見られました

この研究では、バングラデシュの農村部で2001年から2002年に結婚した12歳から19歳の妊娠していない新婚夫婦を対象に、痩せていることが妊娠までの期間を遅らせることと関連していることを明らかにしました。

具体的には、結婚後4カ月以内に測定された、痩せていることを示す左MUAC≦21.5cmは、結婚直後に腕周りが大きかった同じ地域の若い女性と比べて、結婚後5～6年の間に妊娠する確率が16％低いことと関連していました。

Jinhee Hur, et al.2020より引用編集