精液の質と受胎可能性の関係:430人の初妊娠プランナーを対象とした集団ベースの研究

論文紹介

精液の質と受胎可能性の関係:430人の初妊娠プランナーを対象とした集団ベースの研究

タイトル:Relation between semen quality and fertility: a population-based study of 430 first-pregnancy planners
著者:J P Bonde 1, E Ernst, T K Jensen, N H Hjollund, H Kolstad, T B Henriksen, T Scheike, A Giwercman, J Olsen, N E Skakkebaek
出版:The Lancet Volume 352, Issue 9135, 10 October 1998, Pages 1172-1177
PMID:9777833
DOI: 10.1016/S0140-6736(97)10514-1
論文元URL:https://www.thelancet.com/journals/lancet/article/PIIS0140-6736(97)10514-1/fulltext

デンマークのオーフスにある総合大学、オーフス大学産科婦人科周産期疫学研究ユニットに所属する Jens Peter E Bonde氏らによって1998年のThe Lancetに報告された研究を紹介します。

ランセットは世界で最もよく知られており評価が高い世界五大医学雑誌の一つであり査読性の論文雑誌です。

≪論文紹介≫

概要

精子濃度の正常範囲の下限値は精液1mLあたり60×10^6個とされています。精子の数の少なさが男性不妊と関連していると報告されて以来精液分析は、不妊カップルの標準的な診断ルーチンの一部となっています。定期的な精液分析には精子の形態や運動性の測定も含まれており、男性の受胎可能性に大きな影響を与える可能性があります。精子数は今でも標準的な指標ですが、男性不妊における精子の濃度の重要性については議論があります。

精液の特徴と男性不妊に関するこれまでの研究では、不妊カップルのみを対象としていたり、子供を授かった男性のみを対象としていたため、精液の特徴と男性不妊に関する研究は限られていました。これらの研究の中には、精液分析と受胎可能性評価の間の時間的なギャップを考慮していなかったり、女性の不妊と性行為に関する情報が不足していたりするものもありました。これらの問題に対処するために、この論文では、生殖経験のないカップルを対象に、精液の特徴と妊娠の確率との関係を研究した内容が報告されています。

調査対象

1992-94年に著者たちは、夫婦で同棲していて、子供がいない20-35歳のデンマークの労働組合員52255人に研究参加に関する手紙を書いて送りました。これら労働組合員のうち、以前に生殖経験がなく現在は避妊を止めて子供を持つことを希望している430組の夫婦が登録されました。内訳として、西センターのオーフスの産業医学科で231組、東センターのコペンハーゲンの成長生殖科で199組のカップルが登録されました。

調査期間

研究のフォローアップとして、カップルが避妊を中止した時点で開始され、6回の月経周期後、またはその期間内に一般開業医によって妊娠が認められた場合に調査を完了しました。
避妊を中止した日は、最後のピルを服用した時、子宮内避妊具を取り除いた時、コンドーム、バリアー、その他の避妊方法を最後に使用した時と定義づけました。(全ての女性参加者は注射による避妊法を使用していませんでした。)

収集データ

研究参加の男性は精液サンプルの提出をし、女性は毎日の月経出血と性交の記録を残し、各月経周期の月経期間中に精液サンプルを1回採取しました。
両パートナーは人口統計学的、医学的、生殖に関する背景、職業、ライフスタイルに関する質問票に記入することでデータを集めました。(夫婦は毎月、職業とライフスタイルの変化についての質問票に記入した。)

<精液分析>
精液サンプルは、参加者の自宅で自慰行為によって直接50mLのポリエチレンの瓶に採取し、分析まで保管しました。著者らは排尿後に採取することを推奨したが、それ以外の時期に採取されたサンプルも有用であることを強調しています。精液サンプルのほぼ95%が2時間以内(平均65分[範囲15~260分])に分析され、その後のすべてのサンプルは、後で精液量と精子濃度を決定するために、冷凍庫に約-20℃で保存されました。
東と西センターのそれぞれの分析結果で有意なばらつきは認められなかった。(p=0.82)
収集データ

結果1:参加者の特徴

  • 430組のカップルが追跡調査中に1661回の月経周期の情報が集まった。
  • 430組のうち35組のカップルが妊娠前に研究から脱退した(表1);
  • 20組は家族計画の変更、15組は無精子症、無月経、または無排卵のためであった。12人の男性は登録時に精液サンプルを提供しなかった。

表1. 参加した430組のカップルにおける避妊中止後の妊娠数

ベースラインからの周期数 周期数 妊娠率(%) 試験からの離脱率(%)
1 430 26.2 14.3
2 358 24.6 22.9
3 278 15.6 17.1
4 241 16.8 31.4
5 187 9.4 14.3
6 158 7.4 0.0
合計 1661 100 100

J P Bonde,et al.Lancet. 1998 Oct 10;352(9135):1172-7.より引用および編集

結果2:精液サンプルの特徴

精液サンプルの特徴を表 2 に示す。ペア分析の結果、凍結フォローアップサンプルの平均精子濃度は、凍結していない登録サンプルよりも7~6%低く(p=0~17)、平均体積は14~2%大きく(p=0~0001)、総精子数は10~5%多かった(p=0~015)。これらの違いの理由は不明である。
凍結により一部の精子の頭部と尾部が切断されるが、精子数には損傷していない精子細胞のみが含まれる。
よりリラックスした家庭環境が、凍結した追跡調査サンプルで産生された精子の量を増加させた可能性がある。

表2. 精液の特徴

精液の特徴 男性の数 平均(標準偏差) 中央値
容量(ml)
登録サンプル(凍結なし) 331 3.14(1.50) 3
フォローアップサンプル(凍結) 236 3.55(1.57) 3.45
精子濃度(X10^6/mL)
登録サンプル(凍結なし) 418 67.3(61.1) 52
フォローアップサンプル(凍結) 256 59.8(54.3) 47
全精子数(X10^6)
登録サンプル(凍結なし) 330 199.2(188) 143.8
フォローアップサンプル(凍結) 236 209.7(4) 169.3
形態と運動性
登録サンプル(凍結なし) 401 40.3(9.9) 41.5
フォローアップサンプル(凍結) 414 38.6(14.2) 36

J P Bonde,et al.Lancet. 1998 Oct 10;352(9135):1172-7.より引用および編集

参加カップルの特徴

参加カップルの特徴を、登録精液サンプルの精子濃度別に表3に示します。
カットオフ精子濃度(20×10^6/mL)は、正常な精子濃度のWHO基準です。

表3. 参加カップルの特徴

特徴 登録時の精子濃度(x10^6/ml) 特徴 登録時の精子濃度(x10^6/ml)
0-20(19%) 20以上(81%) 0-20(19%) 20以上(81%)
研究所 泌尿器系疾患
東センター 49% 54% 男性 19% 9%
西センター 51% 46% 女性 9% 9%
職業 喫煙者(消費量g/日)
鍛工 42% 47% 男性 11.3 13.6
事務職員 45% 28% 女性 9.3 11.5
看護師 13% 25%
年齢の平均 飲酒指数
男性 24.5 24.4 男性 8 8.8
女性 22.7 22.7 女性 4 3.8
最終避妊方法 カフェイン摂取(mg/日)
ピル 30% 34% 男性 546 516
コンドーム 59% 48% 女性 294 321
子宮内避妊具 0 3%
その他 11% 15%
最終性交日が14~16日目の月経周期 63% 59%
サンプル前の平均禁欲日数
登録サンプル 21% 21%
フォローアップサンプル 18% 15%
月経周期の長さ
25日以内 2% 2%
25−33日 78% 77%
34日以上 18% 18%
不明 2% 3%

J P Bonde,et al.Lancet. 1998 Oct 10;352(9135):1172-7.より引用および編集

表 4. 6回の月経周期のフォローアップ期間全体での妊娠

人数 調査期間中に妊娠した女性の割合
参加人数 430 59.50%
精子濃度40×10^6/mL以上 254 65.00%
精子濃度40×10^6/mL未満 164 51.20%
精子濃度20×10^6/mL以上 341 64.80%
精子濃度20×10^6/mL未満 77 36.40%

J P Bonde,et al.Lancet. 1998 Oct 10;352(9135):1172-7.より引用および編集

まとめ

この研究では、精液の質と初妊娠計画者の妊娠確率を関連づけてきました。
精液の濃度が低いことは妊娠の可能性の低さと強く関連していました。
周期別の精液サンプルの分析において、妊娠の可能性は精子濃度が10×10^6/mL未満の月経周期では8%から、精子濃度が40×10^6/mL以上の月経周期では25%に増加しました。

精子の運動性は一般的に重要であると考えられていますが、著者らの研究では、運動性のない精子の割合は妊娠の可能性にほとんど影響を与えませんでした。精液量は妊娠の可能性を予測する上で重要ではありませんでした。

妊娠確率表1
妊娠確率表2

一覧に戻る

※掲載しているレビューは効果効能を保証するものではございません。あくまでも本商品をご使用されたお客様個人のご感想です。