シリンジを用いた膣内授精による妊娠結果の研究論文について

産婦人科医であるDr. Kaberi BanerjeeとDr. Bhavana Singlaが行ったシリンジを用いた膣内授精による妊娠結果の研究では、女性の膣痙や性交疼痛、男性の勃起障害や早漏、もしくはこれらの要素の組合せによる障害(UCM)を抱える55組の夫婦に同意を得た上で、女性の年齢により第1グループ(20歳~33歳)29組、第2グループ(33歳~36歳)14組、第3グループ(36歳以上)12組に分け評価が行われた。

1回の排卵期を1サイクルとし、排卵予定日前後一日おきに自宅でシリンジを用いた膣内授精を繰り返した結果、6サイクルまでに第1グループで68.9%、第2グループで42.8%、第3グループで25.0%という妊娠率となった。
在宅膣内授精(IVI)は、UCMで苦しむ夫婦にとってシンプルで使いやすく効果的な妊娠手段であり経済効果が高いと結論付けられております。

論文は「PubMedCentral®(PMC)、米国国立衛生研究所の国立医学図書館(NIH / NLM)の生物医学および生命科学ジャーナル文献の全文アーカイブ」下記URLに掲載されております。
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC5799934/

弊社は、Dr. Kaberi Banerjeeに正式な許可を頂き、以下論文の和訳を掲載しております。
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J Hum Reprod Sci. 2017 Oct-Dec; 10(4): 293–296.
doi: 10.4103/jhrs.JHRS_5_17
PMCID: PMC5799934
PMID: 29430157
未完成婚夫婦の在宅膣内授精の妊娠結果
Kaberi Banerjee及びBhavana Singla

要旨

未完成婚は、主に腟痙や勃起障害によるものである。不妊治療クリニックでは、約5%の夫婦がこの問題を抱えている。大都市では、ストレスが多いライフスタイルが原因で、この問題が拡大している。夫婦の多くは、不妊治療として子宮腔内授精の勧めを受けている。しかし、このような夫婦には、在宅授精という手段により、シンプル、安価、かつ効果的に妊娠することが可能である。本書において、未完成婚夫婦における在宅膣内人工授精の妊娠率を記す初めての研究を発表する。

ねらい:

未完成婚夫婦における膣内授精(IVI)の妊娠率(PR)を評価すること。 設定:外来不妊治療クリニック、ニューデリー

デザイン:

遡及的分析

材料(対象)と方法:

未完成婚夫婦55組が、2年間に渡って評価された。第1グループは20歳から33歳の患者29組、第2グループは33歳から36歳の患者14組、第3グループは36歳以上の患者12組を含む。

結果:

未完成婚の原因は、67%が腟痙、22%が勃起障害、11%が早漏であった。6サイクルのAI後の臨床妊娠率は、第1グループが69%、第2グループが43%、第3グループが25%であった。

結論:

未完成婚においては、膣内授精は、シンプルで、短く、経済的、効果的、かつ無痛で受胎が可能となる手段である。

はじめに

未完成婚(UCM)とは、ある一定期間定期的な試みを行うにもかかわらず、陰茎と膣の貫通に至ることができない障害である。女性の膣痙や性交疼痛、男性の勃起障害(ED)や早漏(PE)、もしくはこれらの要素の組合せが、病因として大きな役割を果たしていることが知られている。これは、保守的なコミュニティーにおいて医師がよく直面している、医療的・社会的問題である。性医療のクリニックの訪問理由として、このことが17%にまで達している。[1]膣痙はUCMの主だった原因として報告されてきている。膣痙では、膣傍の筋肉の痙攣が酷いために、陰茎の挿入が不可能もしくは不快になる。[2]ED(もしくはインポテンツ)やPEが、男性の性医学では最も一般的な問題の上位2つだ。EDでは、性行為を達成するために十分な勃起を実現・維持することが不可能な状態が持続する。[3]EDの疫学的研究によると、約5%から20%の男性が中度から重度のEDを持つことが示唆されている。[4]PEの特徴は、膣貫通後約1分以内もしくは貫通前に、常にもしくはそれに近い頻度で射精が行われ、全ての貫通もしくはそれに近い頻度で射精を遅らせることができず、その結果として、苦痛・思い悩み・挫折感・性的関係の回避など、個人に否定的な結果をもたらすことである。[5]PEは一般的に男性に見られる性的機能障害で、その有病率は20%から30%である。[6,7]これらの全ての要素において、夫婦は受胎困難な状況に直面している。しかし、シンプルかつ無痛の方法である膣経路の人工授精(AI)により、容易にこれらの治療を行うことができる。それはシンプルで非侵襲性の技術で、高価な施設なしに行うことができる。[8]

本書では、UCMの夫婦で在宅膣内人工授精の妊娠率を発表するが、そのような研究は我々が知る限りでは史上初めてである。

材料(対象)と方法

2014年11月から2016年9月までの期間に、UCMの55組の夫婦に告知による同意を得た上で、彼らの評価を行った。本研究は我々のセンターにおいて実施された。患者は年齢によって3つのグループに分けられた。第1グループは20歳から33歳の患者29組で、第2グループは33歳から36歳の患者14組、第3グループは36歳以上の患者12組である。既婚の男性患者が彼の妻の膣内に陰茎を挿入することに失敗する経験をした時、それをUCMであるとした。全ての夫婦に、経歴の確認、身体検査、構築されたアンケート調査を行い、評価を行った。彼らは、特に外生殖器や第二次性徴に焦点を当てた、総合的な身体検査を受けた。3日間の禁欲後の精液の分析が実施された。子宮筋腫、ポリープ、卵巣嚢胞などの骨盤部の病理の可能性を打ち消すために、経膣的超音波検査も行った。この初期評価実施後、問題の性質や様々な管理方法の選択肢について、対象夫婦との協議が行われた。他の全ての男性・女性側の不妊の原因は、本研究の対象外とした。

AIキットには、無菌の採精容器、子宮腔内(IUI)用の柔らかいプラスチック製カテーテル、5ccの注射器が含まれる。男性パートナーは、自慰行為により採取した精液を、プラスチック製の採精容器にて集めるように言われた。5ccの注射器がIUIカテーテルに組み込まれ、IUIカテーテルの先端部までガードが完全に引かれた。IUIカテーテルは採精容器に置かれ、採取した精液が負の吸引により全て5ccの注射器に吸引された。女性パートナーは個室で、臀部に枕を敷いた状態で脚を曲げて仰向けに横たわるように言われた。夫は、精液が入った注射器が付いているIUIカテーテルを、床から45度の角度で挿入するように言われた。夫がそれを膣内にゆっくり注入した後、患者は20分の休憩を取るように指示を受けた。この膣内授精(IVI)の手順について、外来診療部門において対象夫婦は詳しく説明を受けた。

彼らは、女性の排卵期に6回のサイクルに渡り、一日おきに自宅で同じことを繰り返すように言われた。柔らかいIUIカテーテルに装着した5ccの注射器の使用によって、精液を膣の奥深い位置に注入することを容易にし、精液が膣内に入れられた[図1]。授精後30分間、精液の漏出防止のために、女性は同じ位置で横になったままの状態でいるように言われた。対象の夫婦達は、尿の妊娠検査で陽性になった場合、もしくは6回のサイクルで結果が出ない場合は、戻ってくるように言われた。


図1 在宅授精キット

結果

本研究では、過去から遡って合計55組のUCMの問題を抱える夫婦が対象となった。 女性パートナーの年齢は、20歳から40歳であった。全ての年齢層のグループにおいて、結婚年数は1年から7年の間で、その平均は3.5年、そして不妊期間も同じであった。1つ目の年齢層のグループは、結婚年数は1年から5年の間で、その平均は2.5年であった。

UCMの根底にある病因要素は、表1で描写されている。表2では、各グループの授精サイクル数平均と年齢分布が描かれている。

表1 未完成婚の病因要素

患者数の割合
膣痙37/55(67.2%)
勃起障害12/55(21.8%)
早漏6/55(10.9%)

表2 グループの特徴

グループ年齢層夫婦IVI サイクル数
第120歳~30歳29組86回
第231歳~35歳14組46回
第336歳~40歳12組70回

IVI=膣内授精


この期間中、55人の女性に202サイクルの免疫グロブリン静注(IVI)が行われた。女性1人につき、1から6のIVIサイクルが行われた。第1グループでは、29人の女性に対して86サイクル、第2グループでは、14人の女性に対して46サイクル、更に、第3グループでは、12人の女性に対して70サイクルが行われた。平均は、第1グループでは3サイクル、第2グループでは4サイクル、第3グループでは6サイクルであった。20歳から40歳の女性が授精し、年齢に関係したPRの低下が見られた。表3では、年齢で分かれた各グループにおける、尿の妊娠検査での陽性判定に基づくPRが描写されている。

表3 膣内授精の妊娠結果

グループ夫婦IVI サイクル組数(PR)サイクル毎PR
第129組86回20組 (68.9%)23.3%
第214組46回6組 (42.8%)13%
第312組70回3組 (25%)4.3%

IVI=膣内授精、PR=妊娠率

20組/29組=68.9%
20組/86サイクル=23.3%

議論

膣内人工授精は、一部の夫婦において不妊を緩和するために使用される、妊娠補助治療である。本書は、未完成婚における膣内人工授精について臨床PRを文書化した、我々の知る限りでは初めての研究である。

未完成婚の原因は、腟痙、ED、もしくはPEであると考えられる。それらの治療法として、膣拡張、処女膜切断、行動療法、もしくは泌尿器の治療などが存在する。[8,9]しかし、多くの夫婦はこれらの治療に抵抗力があり、10年から15年もの間、慢性的に未完成婚の状態で苦しんでいる。[8,9]彼らの多くの主な悩みは、子どもを授かることについてだ。 彼らの殆どは、膣拡張やEDの医学的治療を何度か試みて失敗した後で、IUIを勧められる。しかし、IUIは更に侵襲的である。女性はCuscoスペキュラムの挿入を許さない場合もあり、かつそのためには全身麻酔が必要とされるケースもある。医者やクリニックの訪問回数も更に多くなり、日常生活に支障が出ることにつながる。精子の準備、超音波モニター、通院が求められるため、更に費用も高額になる。

その一方で、在宅膣内人工授精はシンプルで安価な上、繰り返し通院することも求められない。対象夫婦のプライバシーが守られる。特に、管が開いていて精子のパラメーターが良好で、排卵している若い夫婦において、良い妊娠結果が得られている。

IUIはIVIに比べてより高い懐妊率があるから、これが優先的な治療方法であるべきだと主張することもできるだろう。未完成婚夫婦における在宅IVIとIUIの妊娠結果を比較する研究はないが、精子提供者の精子による人工授精を受ける女性における、子宮頸部周辺や子宮頸部内の授精をIUIと比較した研究はいくつか存在する。1996年にDrenth他は、貫通型性交という選択肢がない膣痙の女性が懐妊するための手段として、寝室での自己授精の手順について言及している。[10]しかし、彼らはそのPRを文書化していない。2008年のCochraneの研究により、IUIがより良い妊娠結果を出していることが確認されている。[11]研究結果によると、6サイクル後のIUIは、子宮頸授精と比較して著しい出生率の改善(オッズ比[OR]:1.98、95%信頼区間[CI]:1.02-3.86)及びPRの改善(OR:3.37、95%CI:1.90-5.96)を実現した。2015年の大規模な研究では、精子提供者の精子の子宮頸授精(CI)あるいはIUIを受けている女性において、PRの差は見受けられない。[12]最大6回までの治療サイクルでのPR累計は、IUIでは40.5%で、CIでは37.9%であった。Kathiresan他では、男性の脊椎脊髄損傷を原因とする不妊の82組の夫婦において、IVIとIUIにおける妊娠結果の比較が行われた。彼らは、結果が類似していることを発見した。[13]

したがって、UCMの夫婦における在宅人工IVIの妊娠結果を文書化した最初の研究をここに発表する。このような夫婦が妊娠するために、在宅授精は、患者にとって使いやすく、経済効果が高い手段であると、我々は結論付ける。

結論

在宅授精は、未完成婚により苦しむ夫婦が妊娠するための、シンプルで患者にとって使いやすく効果的な手段である。